蛙蓮堂 書肆部

アレンドウ ショシブ。書肆と名乗りつつ本を売っているわけではない(まだ)。本屋を巡り、本を探す。

本屋と休日

旅に出た。

とはいえ、古本屋めぐりを旅の目的にするのは、京都三大祭り(春の都メッセ、夏の下鴨神社、秋の知恩寺)くらいのもので、仕事で出張だったり、何かイベントに行ってみようであったり、日常を忘れてふらっとだったり、いつもは一応 メインの要件があることがあるのが常である。とはいえ、やはり地元の名物書店は新刊、古本問わず調べておいて、隙あらば、と言いながら予定をおしのけてでも隙を作ってなんとか本屋に寄ろうとする。ひどいのは出張でタスマニアに行った時で、地図でホテルの場所を確認するついでに "2nd hand books" などと検索してしまい、近所に古本屋があるのを発見して読みもしないだろうのに数冊の本を買って帰ってきたことだ。やはり入り口に1ドル均一コーナーが作られ、なかなか味わい深かった(ここからも本を買った)。

つい先日も、新幹線に乗り旅に出た。駅スタンプを捺し、そばをしこたま食らった後、店主セレクトがおもしろいと聞いていた本屋に手元の地図を頼りに向かう。

店は閉まっていた。張り紙曰く、都内のイベントに参加するため店を休むとある。ガラス窓に鼻の脂が付くほどに顔を近づけ、あぁ、あの本はなどとただつぶやくのみである。この日はしかたなく、薄暗くなってきた中を、これまた地図に落とし込んでいた長年の風雪に耐えた激シブな古本屋で、郷土臭の強いラインナップをかみしめながら数冊の文庫を手にした。

その行けなかった本屋だが、部屋に戻って調べるに、新宿の駅ビルでのイベントに参加するらしい。今日、その新宿のビルのほぼ真横を通ってここまで来ましたとも。イベントは前日からやっていたようで、みちみち調べれば行くことができたかもしれないのがまた悲しい。そして、帰った翌日の3連休3日目に行けばいいとこの時は思っていたのだが、すでに前日にイベントが終わっていたことに、当日になって気づいたのであった。

話を旅先に戻すと、翌日も昼からまた同じ場所に向かい、今度は前日と逆方向の南方面を攻める。地元のパンを食べ、ご当地文房具を買ったりして、やはり古本屋にも今日も行く。まず行き着いたのが店主らの厳選した本だけを並べた小さな本屋で、店のロゴをデザインした書家のイベントに出くわした。その後、このあたりで一番大きな古本屋を目指す。

休みである。3連休の2日目。今日は日曜日なのである。神保町だって日曜日にたいていの古本屋は定休日だ。ガラスの至近距離から店内を物色するのも今回2回目。ただうなるだけで虚しさがつのる。当たり前だがどうして休みなんだと叫ぶ。みんなが寄ってたかって自分の邪魔をする。が、黙って耐えるしかない。帰りしなに寄った駅ビル内の名物書店で沢木耕太郎「旅のつばくろ」に宮沢賢治の詩が書かれた書皮をかけてもらい、旅先で出会うにふさわしいと運命を感じて少し気がおさまった。

家に戻った晩、くやしさと虚しさに寝つけずにいると、ふと、この感情が昆虫採集帰りの車窓に似ていると気づいた。図書館でガイドマップを借り、地図に丸をつけ、1年に今だけしか飛ばない蝶を採りに行く。あちこち歩き、ここぞと目を凝らし、網を振る。目的のものが採れれば帰りの車内でこっそり、しかし何度もチラ見して喜びをかみしめる。しかし、全く見つからずただ歩いて終わった時もあれば、目の前で逃げられたり網の届かない頭上を飛んでいるのを見上げるだけの時もある。そんな時、いくら他の珍しいものをつかまえたとしても、ボックス席でひとり、甲府駅大月駅の発車待ちや山あいをぼんやり眺める中央線普通列車 高尾行きの車窓はただただ虚しく、また1年後のリベンジを淡く思うのみである。それに比べれば古本屋なんて、店のある限りいつでも行けばそこで待っているのだ。

そしてまた、新幹線に乗って旅に出た。前回と違う場所だ。駅スタンプを捺し、昼食に駅そばを食らい、降り出した雪の中、歩いて古本屋に向かう。バスの時間が合わなかったのである。昼も過ぎたし、さすがに開店しただろう。昨年も来たが、この古本屋に行くのは初めてなのだ。雪とマスクでメガネが曇る。マスクをはずすと空気が冷たい。

果たして、店にはシャッターが下り、店名の書かれたカマボコ板のような木札がただ揺れているのみである。いつもはSNSに流れる営業予定が今週は流れていなかった。普段は開いているからと向かったのが甘かった。この展開はわかっていたのだ…。しかたなく、ここまで来たので近くのリノベーションされた市場通りで雑貨店や飲食店の前を素通りし、戻りがてらに寒いからとカフェでコーヒーを飲み、向かいのバス停から数分後にちょうどあったバスに乗って次の古本屋の近くまで向かう。乗った次のバス停が先ほど閉まっていた古本屋の目の前、これで店が開いていたら笑うわーなどと言えば、本当に店は開いている。ちょうどバスが停車して客を載せているので、開いている店の写真をささやかに車内から撮る。乗ってきた客の手には文庫本が握られていた。バスは、歩いてきた道を何も考えずに戻っていった。

その後といえば、何人かの一棚オーナーによる(一応)古本屋と、これまた店主のセレクトの光る本屋で本の匂いを体内に充足させ、そしてまた持っているトートバックにも本が充填された。もう雪は上がっていて、川沿いの道はむしろ明るい。駅へと向かうメインの通りを、宿へと連れ立って向かいながら、先ほど閉まっていた古本屋へと向かう分岐を何もなく通り過ぎた。時刻は夕方5時。まだ店は開いているかもしれない。しかし、やはり行くのだとはついぞ言い出せず、今回は縁がなかったのだと3回つぶやいた。むしろこちらからお断りだと1回だけ強がった。縁があれば、来年にでもまた来れるだろう。ここには前年も同じ時に来たのだから。今回はこれでよかったのだ。よかったのだ。よかったのだ…。

そしてホテルに向かって部屋に本を置き、駅ナカの立ち飲みで日本酒を呑んだ。

 

 

 

 

タスマニアの古本屋の看板

 

イベント参加のため本日はお休みの張り紙

 

激シブな古本屋

 

この地域で一番 大きな古本屋は日曜日が定休日だった

 

1330:閉まってるぅー(今週はインスタで営業時間のポストがなかったし

1430:開いてるぅー(バスの中から。まさかねとか思ったら

 

この店には店員はいない。あらかじめ入口のキー番号を教えてもらって入る。

 

去年もこの本屋には来た。セレクトがツボにはまって選ぶのに困る。